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ぶらりごろりぱくり

あと一ヶ月でここへ越して来て二年。
東京へ戻るとか関東に戻るとかいう選択肢を一旦外し、
ともかくもう少し現状を快適にしてみるかと考え始めて数か月。
快適を手に入れる最低条件は今の家を出る事。

僕の住んでいるような人口減少が止まらないド田舎には空き家が沢山ある。若い世代はどんどん町へ出て行き、残った年寄りは次々に死んでいく。市のデータを見ても当然出生より死亡の方が多いし転入より転出が多い。
故に人は減り、家だけが残される。
で、こういった田舎では市や町が移住希望者に対して空き家バンクという名で、住む人がいない家の賃貸や売買を斡旋していたりする。

この前カブで走り回った時にその中の二軒を見て来た。
見て来たと言っても外から眺めただけだから中がどうなのかは分からんけれど、多分買っても200万とか400万とか。借りても月1万とか3万だと思う。
バカみたいにでかい家もあれば田舎の住宅地に建った味も素っ気も無い家もある。築100年なんてのがあると思えばツーバイーフォーの新しい家もある。どんなにボロだろうと、どんなに味気ない街中に建っていようと、借りる人や買う人がそれで納得しているなら別にそれで構わないよなあ。
でも僕が見た二軒は立地に関してタダでもご辞退申し上げますという物件だった。

先日も書いたけれど自分の家から歩いて行けるような距離に隣家があるのは嫌だ。
でも普通そういう場所に人は住まない。別荘でさえ別荘地に寄り集まって建てたりする。だけどそれは社会生活の利便性を考えれば当然の事だろうと思う。だからどうしても孤高の一軒家に住みたければ自分のような人が手放した家を根気よく探すか、あるいは自分で建てるしかないんだろう。

先日うちのカミさんが飲み会で忙しい義兄さんの代理で地区の班長会へ顔を出した。
その時、空き家バンクに登録する物件を市が募集しているという通達があったらしい。ところがその班長会で話し合われた事は、自分の家の周りで主が死んだり都会へ出たりして空き家になっている家があっても、里帰りした元住人などに「余計なお世話」で空き家バンクの話などするなという申し合わせだったらしい。
平たく考えれば、出て行った奴らが二束三文の小金欲しさに家を貸したり売ったりすれば、どこの馬の骨とも分からん都会者がオラが村にやって来て、隣に住み始めるかも知れないという危惧なんだろうと思う。

都会だって家を買ったり借りたりする時に隣人までは選べないだろうし、たとえ入居の時には慎重に選んだとしても引っ越しで入れ替わられたら元の木阿弥だ。
実際僕だって随分と隣人の奇行や騒音には悩まされ続けてきた。
しかし怪しげな宗教団体や暴力団でもない限り都会生活で転入者を阻止する事は難しい。難しいだけでなく、そもそも余所者の集まりでしかない都会にはそういった気味の悪い閉鎖的コミュニティがあまり存在しない。
隣に空き家があっても持ち主に空き家バンクの話などするな、というオラが村根性がある限り、移住者と先住者の間には初めから猜疑と嫌悪の壁が築かれている。僕はそのオラが村根性こそが人口減少の根幹だと思う。
第一次産業と自営業に生まれた長男だけが大事に育てられ、次男次女以下はバカバカしくなって都会へと出て行き、そうして閉鎖的コミュニティはますますその濃度を濃くしながら熟成されていく。この土地この面子の常識が世界の常識だと信じ、周りに空き家があっても空き家バンクには固く口を噤めと団結する。そのくせ一方では何かにつけて「地域の活性化を!」とか喚いているんだから訳が分からんです。

ここにも何度か書いたけれど今の僕は腰掛のような住民で、地域の付き合いは義兄さんが一手に引き受けているから先住者との接触は皆無。だからと言ってキャリーバッグを引きずっている旅行者でもないという微妙な立場でいる。この微妙な立場のいいところは他者との利害関係がほとんど無いという点だと思う。
その僕が空き家バンクに登録されている物件を見ながら漠然と思う事は、どんなに広くて立派で眺めの良い家があっても、そしてそれが東京や大阪周辺の価格からすれば呆気にとられるほど安い値段だとしても、やっぱり買うよりは借りた方が何かと都合がイイんじゃねえの? ということだ。
それは例えば町でナンパした彼氏とナンパされた彼女が、若き性欲とまだ見ぬ夢の憧れだけで入籍してしまうのに似ている。たとえ500円で買える家でも、買ってしまったら面倒な事に巻き込まれそうな気がしてならん。借りているだけなら問題が生じた時点で「ハイそれではサヨウナラ」で済む。
だから最小の出費で済ますなら貸家。大枚を叩いて住処を手に入れるのなら、初めから猜疑と嫌悪の壁など無い山奥の一軒家を自分で建てるしかないのか知れん。

小学校の頃、転校生がやって来ると聞いたら楽しみでしょうがなかった。
面白い奴かな? 可愛い子かな?
よそから来る奴を、来る前から疑いや不審の目で見たりなんてしなかった。
大人になるという事は経験を積むことで、
経験を積むという事は災難を予見できるようになる事だ。
でも、経験なんて積まない方が本当は幸せなんだよな、きっと。




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