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ぶらりごろりぱくり

小学生の頃、毎年夏になると夏休み40日のうち20日以上は金沢八景に住んでいる
親戚の家へ僕一人で泊まりに行ってた。
その家のおっちゃんはバスの運転手で、おばちゃんはスーパーの惣菜売り場で働いてた。
一番上の長男はもう働いていたし、高校生の次女はあんまり家にいない人だった。
一番下の次男が中学生で僕と時々遊んでくれたけど、夏休みでもクラブ活動に熱心だった
から、昼間はほとんど家にいなかった。
だから僕はいつも一人でゴロゴロして、小銭を片手に片道30分歩いて貸本屋へ行き、
10円で漫画を一冊借りて、10円のアイスキャンデーを食いながらまた30分歩いて帰った。

あの頃は八景島なんてもちろん影も形もなく、野島公園の先は砂浜の海水浴場だった。
時々一人で泳ぎに行って、海の家のシャワーをただで使わせてもらったりした。
何をするにも一人だったけど、毎日毎日飽きる事なんてなかったし、
毎年夏はあの家へ行くのが当たり前になっていた。

その家は小さな庭と、小さな縁側と、小さな土間と、狭いトイレのある古い日本家屋で、
玄関の横には使わなくなった火鉢に水を張って金魚を飼っていた。
国道16号から細い路地を入っただけなのに、辺りの道は舗装なんかされていなくて、
土の道に草や木が生えていた。まだそういう時代だったんだな。
西側に向いた家の壁に沿って、白粉花がいっぱい咲いていた。
銭湯へ行く時その横を通ると、白粉花の匂いが路地いっぱいに香ってた。

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僕は、ある時代のクルマなら写真を見ただけで200種類ぐらいは言い当てられるけれど、
花の写真をどんなに並べられても、きっと10かそこいらしか名前を言えない。
そんなくだらない人間になってしまった僕は、
どんな花が好きですか? と誰かに問われた時は、
タイで見た「ジャスミンです」と答えるか「桜です」と馬鹿丸出しの返事をする。

Googleのストリートビューで見てみたら、あの家はもう無かった。
道はすべて舗装されて、銭湯のあった場所にはマンションが建っていた。
貸本屋があった場所も、アイスキャンデーを買った甘味処も、
京急の低いガードや道の曲がり具合以外、思い当たるものは何も無かった。
白粉花は見た目がしょぼい。でも僕は白粉花の匂いが好きだ。
あの匂いを嗅ぐと、僕は金沢八景の家の路地を思い出す。
夏の夕方の、あの頃の匂いを思い出す。

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今の家の周りには赤い白粉花がたくさん咲く。
昨年の夏の終わりに、
もう誰も住んでいない隣の空き家に咲いていた白の種を盗んで来て撒いた。
今年白が少しだけ咲いた。
どこかに黄色が咲いていないかな?
今日は二十四節気の処暑。




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